衝撃!ボルドーのぶどうが引き抜かれている。
- Yoshi Masuda
- 2024年12月15日
- 読了時間: 5分
更新日:2024年12月17日
なんと、フランス政府が、ボルドーのぶどう畑の減反政策を強力に推し進めています。ボルドーを訪問して、現地の人たちからこのニュースを聞いてびっくりしました。
ボルドーには、東京都の面積の半分に相当する11万ヘクタールのぶどう畑があります。

そして、今回の減反では、その約10%にも当たる約1万ヘクタール近い畑から、ぶどうが引き抜かれたそうです。もちろん、補助金と引き換えにですが。
この背景には、消費者のワイン離れという、ワイン業界にとって深刻な問題があります。
ワイン消費落ち込みの原因
フランスでは「水よりワインの方が安い」とか「水よりもワインをがぶ飲みする」などと言われるように、ワインが生活の一部になっています。
ところが、そうした生活習慣を支えてきた中高年層のワイン消費量が落ちているそうです。毎晩、必ずワインを飲んでいた人が、健康志向で週に何回か休肝日を作るようになったそうです。

こうした中高年層が毎日の食卓で飲むワインは、10ユーロ以下のいわゆるテーブルワインが中心なので、そうした価格帯の低いワインの売り上げが大幅に落ちています。
追い討ちをかける「世界の潮流」
「世界的な若者のアルコール離れ」もワイン消費量の減少に影響を与えています。
アメリカではSober Curious(直訳すると「アルコールを飲まないことに興味を持つ」)という概念が浸透し、若者を中心にアルコールを飲まないライフスタイルを選ぶ人が増えています。ニューヨークなどに行くと、モクテル(ノンアルコールのカクテル)専門のバーが若者に人気だったりします。

日本でも、タイパの観点から、若者のアルコール離れが起きています。
ワインは昔話に出てくる飲み物になってしまうのか?
このように若者の「アルコール離れ」が進んでいますが、なかでも「ワイン離れ」は、他のアルコール飲料より進んでいます。
これは、ワインからクラフトビールやカクテルなどへ移行する若者がいるからです。このためクラフトビールやカクテルの消費量の落ち込みはワインほど大きくなく、正にワインの一人負け状態。

若者は「ワインは何か堅苦しいもの」「ワインはうんちくだらけで煩わしいもの」「ワインは中高年のもの」というイメージを持っているようです。このため、仲間と楽しく飲む、飲み物には、ワインが選ばれにくいとか。気取らないビールやカクテルを志向するようです。
私は、世界中の様々なワイナリーを訪問しましたが、確かに世界のどのワイナリーでも、訪問者の中心は中高年層で、若者はほとんど見ません。ワイナリーでは、たくさんの老年の夫婦が楽しそうにワインを飲んでいて微笑ましいのですが、若者の姿がほとんどありません。
これは、ワイン業界にとって、深刻です。「ワインは楽しい」「ワインは気楽に飲むもの」というイメージを作っていく必要があると思います。その意味でワインは転換点にあるのかもしれません。
少し話が逸れてしまいましたが、そんなわけで、フランスでは、中高年、若者とあらゆる年代でワインの消費が減っています。
そして、ボルドースタイル離れも
そんな中で、ボルドーには、もうひとつの大きな頭痛のタネがあります。いわゆるボルドースタイルと言われるワインの人気が急速に下がっていることです。
ボルドーのワインは、「しっかりとした」とか「重厚な」とか「力強い」で表現されることが多い重めのワインです。タンニンの滑らかな渋みがいつまでの後味として残り、私の大好きなワインです。

ところが、最近は、こうした主張の強いボルドーワインは料理の邪魔になるということで、若者を中心に料理の邪魔にならない軽めのワインへと嗜好が移っています。
確かにアメリカでも、ボールドなカリフォルニアワインに対して、ニューヨークワインがエレガントさを前面に出して「料理を邪魔しないワイン」として、独自の市場を築いています。
このように、ボルドーは、他のフランスのワイン産地以上に、ワイン消費量減少の影響を受けていて、供給が消費を上回っています。その結果、冒頭に述べたように、大胆な減反政策が行われているのです。
ボルドーの今後のゆくえ
今回、ボルドーのシャトーを数軒訪れ、生産者と話をする機会がありましたが、どこのワイナリーも、市場を意識してか、これまでよりエレガントな味わいを志向しているように感じました。ボルドーの大胆な味わいが好きな私としては、少し寂しい気がします。

ただし、消費量が極端に落ちているのは、低価格のワインが中心です。5大シャトーに代表されるような高価格帯のワインは、今でも根強い人気があり、むしろ品薄の状況。価格は高騰の一途で、一般消費者の常識からかけ離れた価格になっています。
ワイン市場は、ますます、マニアックな人たちや、お金持ちに支えられる特殊な市場になってしまうのでしょうか?常に世界のワイン市場をリードしてきたボルドーの今後の取り組みが注目されます。
<ボルドーのガイドさん>
ボルドーでは、AMT BORDEAUXの大宅利恵子さんにご案内頂きました。
フランス歴が長く、通訳としてはもちろん一流ですが、ガイド以外にぶどう畑で働かれていて、その経験に基づいたお話がとても楽しいです。
事前のメールでのやり取りも迅速で丁寧。当日も私の無理なお願いにも快く対応してくださり、とても満足しました。おすすめのガイドさんです。

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